大判例

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佐賀地方裁判所 昭和31年(ヨ)29号 決定

申請人 杵島炭鉱株式会社

被申請人 杵島炭鉱労働組合

主文

一、別紙目録記載の物件に対する申請人及び被申請人の占有を解き、これを申請人の委任する佐賀地方裁判所々属執行吏の保管に移す。

二、右執行吏は前記物件を申請人及び申請人の指定する者(保安要員を含む)に使用させ又は立入らせなければならない。

三、被申請人はその所属組合員(保安要員を除く)若しくは第三者をして前記物件内に立入らしめてはならない。

四、右執行吏は前記物件がその保管に係ることを公示するため適当な方法をとらなければならない。

(注、保証金三十万円)

(裁判官 岩崎光次)

(別紙省略)

【参考資料】

立入禁止等仮処分命令申請

申請人 炭島炭鉱株式会社

被申請人 炭島炭鉱労働組合

申請の趣旨

一、別紙第一乃至第五図面添付の目録記載の土地内(赤線を以て囲む土地)及び建物建造物、施設(朱書した部分)その敷地内並に第六乃至第九図面記載の坑口、坑道其他すべての物件に対する申請人及び被申請人の占有を解き、之を申請人が委任する佐賀地方裁判所所属の執行吏の保管に移す。

二、右執行吏は前項の土地、建物、坑口、坑道其他すべての物件を申請人及申請人が指定する従業員其他の者に使用させ又は立入らせなければならない。

三、被申請人等は被申請人所属組合員若しくは第三者をして右土地、建物、坑口、坑道その他すべての物件内に立入らしめてはならない。

四、被申請人等は自ら又はその所属組合員若しくは第三者をして申請人が指定する従業員其他の者が右土地、建物、坑口、坑道その他すべての物件内に立入ることを妨害し又は妨害させてはならない。

五、被申請人等はその所属組合員をして右土地、建物、坑口、坑道その他すべての物件内から退去せしめなければならない。

六、被申請人等において前三項を実行しないときは、執行吏はその実行につき自ら必要なる処分をなさなければならない。

七、被申請人等は申請人が指定した保安要員を引上げてはならない。

八、右執行吏は右物件がその保管に係ること及びこの仮処分の内容を公示するため立札、掲示板の設置其他適当な方法をとらなければならない。

との御命令を求める。

申請の理由

一、申請人は佐賀市に本社を有し、石炭の採掘、販売並びにその附帯事業を行う株式会社であり、杵島礦業所、北方礦業所、大鶴礦業所は何れもその事業所として夫々杵島郡大町町、同北方町、東松浦郡入野村に所在する。

杵島礦業所は日産約二、二〇〇屯、職員三六四名、礦員三、六三七名、北方礦業所は日産約二四〇屯、職員七八名、礦員四七三名、大鶴礦業所は日産約二〇〇屯、職員七七名、礦員四〇七名の事業所である。

二、被申請人組合(以下組合という)は杵島礦業所、北方礦業所、大鶴礦業所の夫々に所属する礦員を以て構成する単一組合であり、石炭産業労働者の全国組織としての日本炭鉱労働組合(以下炭労という)に下部組織として加入している。

三、申請人と組合との間の賃金協定は、昭和三十年四月六日附の申請人と炭労との間の協定に基き昭和三十年五月三十一日を以て調印実施されていたが昭和三十年十二月三十一日を以て右協定は何れも期間満了し、目下新協定につき申請人と炭労との間に於て交渉中であるが、その経過は次の通りである。昭和三十年十二月二十六日炭労は申請人が加入している石炭産業経営者の団体である九州石炭鉱業連盟に対し、昭和三十一年一月より同年十二月末日までの鉱員賃金の引上を要求する要求書を提出したのであるが、これに対して連盟は昭和三十一年二月四日附を以て「炭礦経営の実情は辛うじて赤字経営を脱した程度にすぎず、過去の深刻な深傷はそのまま残つており今後の炭界の見通しは暗い。特に九州五社(申請人を含む)は経営規模が小さく金融上も不利であり貴要求について慎重検討しているけれども未だ具体的な回答は出来かねる」旨の回答をなした。その後折衝を重ねたが三月五日に至り連盟は「三月末日迄は前協定を延長する」と回答した。炭労は之を不満とし三月八日正午迄の期限附回答を要求した。三月八日連盟は「三月末日迄は前協定を延長、四月一日より十二月末日までの分については具体案を十日に提出する」と回答した処炭労はなお不満として之を一蹴し、三月八日附を以て「無期限原炭搬出拒否スト」を通告して来た。連盟は事態収拾のため、三月十日附を以て「貴方が生産性の向上に協力することを条件として、九ケ月分の業績手当(仮称)として一人当一、八〇〇円(税込)を支給する」旨を回答したのであるが、炭労はこの回答にも一顧だに与えず今日に至つている。

四、右交渉に於て申請人は炭労に対し、申請人及び石炭鉱業の現状を説明して炭労の要求するが如き賃上げを容認することは経営上のみならず社会的にも不可能であることを屡々説明した。申請人の昭和二十九年上期、同下期及び三十年上期に於ける経理状況は左の通りである。

期別

使用総資本純利益率

配当率

借入金比率

(註)

1、使用総資本には当期欠損を含まず

2、借入金には長期及短期を含む

純損失(A)

使用総資本(B)

A/B

借入金(C)

自己資本(D)

C/D

二十九年上期

△二四、〇七一

二、八六一、八〇八

△〇・〇〇八四

一、二三五、八〇〇

八二二、六五四

一五〇、二二

二十九年下期

△一〇九、八七二

二、九七三、五七七

△〇・〇三六九

一、三一七、八〇〇

八六五、六三一

一五二、二三

三十年上期

△九九、三七三

二、八二五、一八九

△〇・〇三五二

一、二九二、八〇〇

七五三、七八四

一七一、五一>

なお次に申請人の特殊の事情を述べる

申請人に於ては昭和二十八年上期以降三億数千万円に上る膨大な赤字の累積を計上し、借入金は約十三億円に達し、一方鉱員賃金は全国の炭鉱各社中一、二を争う高賃金となつており、更に申請人の一事業所である北方礦業所は本年七月を以て採掘終了する予定である。

斯様な状態であるので取引銀行の態度は極めて峻厳となり「昭和三十年度に於て多少共黒字を出すこと及び昭和三十一年度に於て明るい見通しがあること」この二つの見込が立たなければ銀行は当社から手を引くということが予想されている。既に申請人はこの経営の危機を打開するため重大な決意をなし経営幹部の大幅な更迭を行い再建委員会を発足し経営の赤裸々な実態を経営白書として発表した。なおこの経営危機を突破し企業の再建を図るために「経営協議会」を設立し被申請人にその協力を求めたところ第一回の「経営協議会」が去る三月十日開催されるに至つた。

以上述べた通り経営は既に危殆に瀕しており、今次炭労の要求するベースアップに応ずることは到底不可能である。

五、右争議に当り炭労は日本労働組合総評議会(以下総評という)の指導する春季賃上げ闘争ゼネストの最も主要強力な支柱である事を自ら誇称し、前記の如く申請人が屡次に亘つてその要求が経営の実体を無視した過大不当のものであることを説明しているにも拘わらず毫も考慮検討する態度を示さず、遂に三月八日附を以て「無期限原炭搬出拒否部分ストを三月十九日より実施する」旨を通告し来つたのである。右は炭労が資本主義経済体制下の企業経営の本質を敢て無視蹂躙し、争議行為の法制的、社会的正当性を裏付ける経済闘争の原則の埓外に出で、以て総評の全国ストの柱石としての使命を忠実に履行し所謂闘争のための闘争を継続する意志あることを示すものと言わざるを得ない。茲に於て争議の長期化を回避する事は現実に於て著しく困難視せらるるに至つた。

六、更に炭労の択ぶ処の前記「原炭搬出拒否部分スト」は争議行為に於ける労資対等の原則に著しく背反する。即ちこのストは、杵島礦業所に於ては全従業員三六三七名中僅か数名が作業を拒否することによつて全生産機能は停止し、(北方、大鶴の各礦業所も同様)全面ストと同様の打撃を会社に与えながら然も他の大部分の者の賃金は通常通り要求することをねらいとするストライキである。

七、かかる不当不公平な組合側の争議手段に対抗して労使の対等的立場を回復維持するため、労働法上申請人に許された争議手段は正に作業所閉鎖であり、且之以外に有効なる措置は現在あり得ないので、之によつて経営は一時的に停止し、若くは減縮し、申請人としては甚大な損失を蒙るのであるが三月十四日附を以て組合に対し申請人は遺憾乍ら保安業務及び従業員の福利に関する施設を除く作業所閉鎖を以て之に対抗する旨を通告した。

八、然るに炭労は既に二月二十七日の中央闘争委員会に於て会社がロックアウト(作業所閉鎖)を行う場合にもその意思表示(掲示、通告、申入)を排して全員平常通り、就業し「原炭搬出拒否部分スト」を断行することを決定し、(「指令」)下部組合員に対して屡々機関紙、ビラ等を以て教宣活動を行つている。又従来の例に徴しても、交渉権、指令権、妥結権の委譲を受けて成立した炭労の下部組織及び組合員に対する統制権能は極めて強大であり、諸般の事情より、炭労中央闘争委員長の指令に基き発する組合闘争委員長の指令により組合員が申請人の意に反して不法に事業所に立入り之を占拠し、申請人の事業管理権を全く排除しその結果不慮の事態が生ずる虞れがあることは極めて明らかである。

右はそれ自体申請人の権利に対する忍び難い侵害であるのみならず炭礦の管理は一般工場に比し著しく複雑であり無秩序なる管理は人命上の事故並びに施設が荒廃に帰し数億数十億の損害を生ずる虞れがある。即ち

(一) 強行入坑は暴行、傷害及び器物毀棄等を惹起する虞れがある労働者が入坑するためには安全灯を携行しなければ不可能である。安全灯は会社が貸与し(毎日貸与、返納)ているものであり。ロックアウト期間中は保安要員以外の者には貸与しない。従つて強行入坑するために、これが争奪の激烈な実力闘争が容易に推察され、勢の赴くところ必然的に少数の申請人側要員に対する暴行、傷害等の事犯を惹起し、その生命、身体に著しい危険を生ぜしめる人的損害発生の公算が極めて顕著であると共に充電機能に障害を及ぼされる場合には事後の安全灯の使用は不能となり、採炭作業は素より保安業務も遂行することができず、事実上保安放棄と同様の事態を招来することとなる。即ち

なお、申請人に於ては嘗て争議行為として事業場閉鎖とした事がないので強行入坑の事例は無いのであるが過去における争議の際の暴力行為は枚挙に遑が無い程である。

(1) 吊上げ目的の人物を数百人のデモの真中に包囲し、数時間に亘り糾問、罵詈雑言を口々に浴びせ種々の約束を強制し応じなければデモの中に入れて揉み恐怖の結果疲労困憊したところで謝罪或は約束をさせる方法である、その実例を次に挙げる。

昭和二十九年企業整備に関する争議の際

A 杵島四坑工作課主任以下職員六名の吊上げ(十一月二十五日)

B 杵島四坑、五坑採礦課長、五坑労務主任の吊上げ(十一月二十九日)

C 杵島選炭課長、労務課長、労務課一職員の吊上げ(十一月三十日)

D 杵島五坑採礦職員三名の吊上げ(十二月一日)

E 杵島用度課主任以下四名の吊上げ(十二月一日)

(2) 夜間私宅にデモをかけ本人或は妻を吊上げた事実

夜間個人の私宅にデモをかけることはそれだけでも女子供を畏怖させるに十分である。

A 杵島採礦課主任宅にデモ、本人及夫人を吊上げ(十二月一日)

B 杵島労務課一職員宅(十二月一日)

C 杵島採礦課主任宅(十二月一日)

D 杵島工作課一職員宅(十二月二日)

(3) 傷害

杵島採礦課一職員の私宅に夜間デモをかけ、本人を呼出しデモの中で揉んだ末足に負傷せしめた事実(十二月一日)

(4) 器物毀棄

A 杵島礦業所関係

昭和二十九年度中元賞与をめぐる争議の際、申請人会社幹部の待機場所であつた客舍を約千名のデモ隊で包囲し外柵六間程度、玄関のガラス戸及び窓ガラス数十枚を破壊した(七月三十一日)なお、同日午後は約二千名のデモが団体交渉場に乱入団体交渉を行つていた申請人の事務所ガラス窓二十数枚を破壊した。

B 大鶴礦業所関係

(イ) 昭和二十八年十月以降賃金に関する争議中夜間デモを行つた際、所長宅の板塀の板十六枚、門柱一本等を破壊(昭和二十九年二月九日)

(ロ) 右賃金争議の際夜間デモにより申請人会社事務所入口の戸のガラス二枚を破壊しなお当時警備に当つていた水町警察官の右前額部に軽傷を与えた(昭和二十九年二月二十三日)

(ハ) 昭和二十九年中元争議の際杵島礦業所労務課の事務所窓ガラス一枚を大鶴礦業所一礦員が破壊(七月二十七日)

以上述べた通り坑外ですらも昂奮した群集心理に支配されて種々の暴力行為が発生しており、若し暗い坑内に強行就労する様なことがあればどのような暴力行為が発生するやも測り難い。

(二) 過去に於ける炭礦災害の実例は炭礦保安の困難性と重大性を示している。

炭礦災害の二、三の実例に就いて述べると

(1) ガス爆発

A 炭礦名 福岡県飯塚市 D炭礦

B 発生年月日 昭和二十九年七月二十八日

C 罹災者数 死亡六名 軽傷六名

D 状況 災害当日乙方H係員は延先の発破のため線香により点火中最後の肩部天ばん側に点火した瞬間その始発煙が停滞していた可燃性ガスに引火し爆発した為六名が罹災し又はこれ等罹災者の救助にあたり不用意にも素面で該坑道に進入した為更に六名が一酸化炭素中毒により罹災した。

E 原因 発破時の導火線の始発焔が天井附近に停滞していた可燃性ガスに引火した為ガス爆発を起したものである。

F 法規違反 保安管理者は関係係員に対して文書で毎日ガス測定をなす様指示したにも拘らず、各係員はその指示に従わず同時に坑内保安係員としての個有義務を怠つたもので規則一二一条違反となる。

(2) 発破

A 炭礦名 佐賀県 K炭礦

B 発生年月日 昭和二十九年八月六日

C 罹災者 重傷二名 軽傷二名

D 状況 該箇所は炭丈一・六米傾斜六度で払長七五米鉄柱カッペ、コールカッターを使用、払、片盤ともH型コンベヤーを使用している。払深部より一・五米の所で払コンベヤーを運転しながら点火し点火終了と共に係員は払入口より捲立側五・五の所に労務者と共に退避した。十四発までは払内爆発を聞たが最後の十五発目の爆発が払口より一米はなれた片盤コンベヤー上口において起り罹災した。

E 原因 前半の爆薬の爆発衝撃により最後に点災した十五発目附近の炭壁面が崩落し、十五発目の爆薬が点火のまま払コンベヤー上に落下し石炭と共に運ばれ片盤コンベヤー上に至つて爆発したものと思われる。

F 法規違反 なし

(3) 出水

A 炭礦名 佐賀県 K炭礦

B 発生年月日 昭和二十九年七月十四日

C 罹災者 なし

D 状況 該箇所は炭層下砂岩層を傾斜一三度で卸掘進をしていた詰先全面発破(穿孔長一米)後も異状を認めず硬積を行い硬積ほぼ終了した頃突然一詰先下盤右側より四〇~五〇立方フィート出水以後水量は漸増し、十五日昼頃は水量二〇〇立方フィート位となり二十二時頃卸坑道水沒、遂には運搬坑道にも満水し十六日遂に採炭作業を中止した。

E 原因 炭層下砂岩層中の水脈に逢着したものと思われる。

以上二、三の災害実例を示したにすぎないが、礦業権者及び保安管理者の指揮命令と従業員の注意にも拘らず通常時に於ても災害の防止は誠に困難であり又その生じた災害も実例に示す如く重大なものである。このような状態に於て争議時保安管理者の指揮命令下にない被申請人所属組合員の強行就労が如何に危険であるかは論を俟たない。

(三) 強行就労の場合は保安管理者の指揮命令が遮断され、そのため坑内は危険に陥る。鉱業権者は鉱山保安法規の定めるところにより、保安管理者及び副保安管理者(非組合員)を選任して鉱山保安監督部長に届出ており(規則第八条)選任された保安管理者は所定の規則に従い、保安を管理する職務を遂行せねばならない責任を負わされている(規則第十九条)。

鉱山労働者は保安管理者、副保安管理者及び保安係員の指示に従わなければならないし、又保安のため必要な事項を守らねばならないことを義務づけられている(法第五条及び法第十七条)。

炭礦の日常作業は一番方、二番方及び三番方に別れ、昼夜間断なく作業が継続されたいるが、掘採作業の進展に伴い変化して行く坑内条件に対しては、保安管理者が自ら現場を巡回すると共に日々当該係員の報告を聴取して、技術的及び綜合的に判断を下し、適切な措置を指揮命令して、坑内保安を確保しているのが正常の姿である。

事業場閉鎖に伴い強行就労の場合に於てはたとえ保安係員が独自の知識でその区域のみの保安が維持されていると判断しても他の区域をも綜合して有機的に保安上の判断を下し得るのは保安管理者以外にあり得ないのである。従つて保安管理者の指揮命令に従わない状況下におかれた場合は、その瞬間から綜合的判断による適切な措置をとることが出来なくなり、そのために保安上の不備が生じて、坑内は危険の状況に陥るのであつて、遂には不幸なる変災を惹起して、人命を失い、資源又は設備に重大な損害を与える等の結果となることは明白である。

これに関して二、三の事例を挙げれば次の通りである。

(1) 通気及び坑内ガスに関する保安上の措置がとれなくなり危険の状態に陥る。

通気及び坑内ガスに関する保安上の措置とは

A 大気圧が急激に降下した場合の処置

B 停止した主要扇風機を再運転するとき、危険区域へ送電し、又は鉱山労働者を就業させる場合の処置

C 通気坑道の管理に関する処置

D ガス量の制限及び排除に関する処置

E ガス突出による危害の防止に関する処置

F 火源の取締に関する処置

等を云い、是等は凡て保安管理者の指示の下に、四六時中坑内状況に応じて適切な処置を講じなければならないのである(保安規則第三章各条)。

坑内の通気は人の呼吸及びメタンガス等の排除に必要であるから、坑内保安係員は保安管理者の指示を受け、坑内作業場毎に、鉱山労働者の人員、可燃性ガス又は有害ガスの発生量、自然発火の可能性、温度、湿度に基いて、その作業場に送るべき通気の量及び速度を調節しなければならない(規則第九十、九十一、九十二条)。

このため、保安係員は坑口から各切羽に至る入気系統及び各切羽から主要扇風機に至る排気系統の全通気系統について、毎日通気の方向及び通気量の配分、メタンガスの含有率等を測定しなければならない、万一是等について異常があるときは、保安管理者の指示に従つて、通気系統の変更又は通気量の調節を行わなければならない(規則第百十六条、百十八条)。

強行就労により保安管理者の指揮命令が遮断された場合に於ては、前記の措置が講じられないため、坑内作業に必要な通気量を確保することが出来ず従つて法規に規定する可燃性ガス又は有害ガスに対する処置を誤り、ガス窒息又はガス爆発の惨事を誘発する危険が生ずる。

(2) 自然発火による爆発の災害が誘発される。

自然発火は、採掘跡、坑道又は炭壁等に於ける石炭が通気中の酸素により酸化せられ、自然に温度が上昇し、遂に発煙、発火するに至る現象である。このため附近にメタンガスがある場合には爆発を誘発して大災害を惹起するに至るので、坑内に於ては最も警戒を厳重にしているものである。

従つて、坑内保安係員は法規に従つて現在自然発火を起している所、又は自然発火のおそれが多い箇所については、気温、湿度及びガスを測定し臭気を検査しその結果を記録し、かつ、その変化に注意し、異状があれば直ちに保安管理者に報告しなければならない、(規則第百五十一条)

鉱業権者又は保安管理者は、自然発火をし、又はそのおそれが多い掘採跡、坑道又は炭壁には、充てん、密閉、セメント注入その他適当な措置を講じなければならない(規則第百五十三条)又坑内の自然発火箇所を密閉するときに爆発のおそれが多い場合は、坑内保安係員は保安管理者の指揮を受け、土のう積その他の安全な処置をしなければならない(規則第百五十五条)。

強行就労の場合に於ては以上の処置が講じられないため、自然発火を未然に防止することが出来ず、従つて自然発火又はこれによる爆発の惨事を惹き起す結果となるのである。

(3) 水沒している旧坑等に近接して掘採すれば出水の災害を惹起する。

水沒し、もしくは水沒しているおそれが多い、旧坑に近接して掘採する場合或いは、可燃性ガスその他のガスが蓄積し、もしくは蓄積しているおそれが多い旧坑に近接して掘採する場合は、又は水脈に近接して掘採する場合に於ては、保安管理者の指揮を受け、先進ボーリングその他の適当な措置を講じなければならない。又この場合に於て多量の出水のおそれが多いときは、防水えん堤その他の防水設備を設けなければならない(規則第三百九十五条)

強行就労の場合に於ては、旧坑等に近接していることも知らずして掘採が行われ、又出水に対する予防措置も講ぜられないので、非常な危険にさらされることとなる。

(4) ガス突出の危険が生ずる

ガス突出とは、石炭掘採中ガス圧により突然多量のガスと多量の粉炭とを噴出する現象で作業中労働者はこのため窒息するに至る。従つて鉱業権者又は保安管理者は、坑道の掘進その他の掘さくをし、ガス突出による危険発生のおそれが多いときは先進さく孔、掘採法の改善、その他の適当な措置を講じなければならない。又ガスの突出による危険発生のおそれが多い箇所には鉱山労働者の退避及び送電停止のため適当な設備を設けなければならない(規則第百二十六条)。当該係員はガスの突出による危険発生を予知したときは、ただちに鉱山労働者を安全な箇所に退避させるとともに、送電を停止する等適当な応急処置をしなければならない(同第百二十七条)。

強行就労の場合に於ては、ガス突出箇所の判断を誤り、適当の処置が講じられず災害を惹き起す惧が多い。

(5) 電気機械の安全が保証されず、坑内作業が危険となる。

炭礦の坑外に於ける電気工作物に関しては、自家用電気工作物施設規則の適用を受け、又坑内の電気工作物に関しては鉱山保安規則により保安上の厳重なる制限を受けている。鉱業権者は坑内作業を休止する場合には、法規の定めに従いポンプ扇風機等の保安用動力を除き、作業用動力線の電源は遮断しておかなければならない(規則第三百二十六条)可燃性ガス含有率が規定以上となつた区域にはただちに送電を停止しなければならない。又この区域に再送電するときは、保安管理者の指揮を受けて当該係員が保安上危険がないと認めたのちでなければ送電することは出来ない(規則第百九十七条)

従つて鉱業権者は保安管理者に無断で遮断中の動力を送電することは違反であるばかりでなく非常な危険を伴い重大災害を惹き起すこととなる。

(四) 携帯用電気安全灯の無断使用はまことに危険である。

坑内で使用する坑内用品(火薬類、機械、電気機械、器具および部品の総称)については、鉱山保安法規の定めるところにより鉱業権者は検定に合格し、且つ検定合格に記載する条件によらなければ使用することは出来ない(規則第七十八条、八十一条)勿論破損したり故障した坑内用品を坑内で使用することは禁じられている(規則第八十条)。

保安技術職員その他の鉱山労働者は検定合格証に記載する前記の使用条件は之を守らなければならないことも法規に明記されている(規則第八十二条)。

携帯用電気安全灯および可燃性ガス検定器も坑内用品として厳重な使用条件の制限を受けている。

従つて、鉱業権者の選任した安全灯係員は、保安管理者の指揮を受けて電気安全灯および可燃性ガス検定器の検査、整備および受渡に関する事項を分掌することが法規上義務づけられているのである(規則第二十条)。

事業場閉鎖に伴う強行就労の場合に於ては、入坑に絶対必要な安全灯を確保するため、暴力によつても安全灯室を占拠し、無秩序のまま安全灯の受渡が行われることは過去の実例によつても必至である。

保安管理者の指揮下を離れた無秩序状態の下に於ては、部品の取替、修理が不充分となり、点検、整備も不完全となり、従つて不完備のまま之を坑内に携帯し使用する結果となる。

これは明かに保安法違反となるばかりでなく、炭礦の如きメタンガスのある坑内に於てはまことに危険であつて、このため爆発の惨事を惹起する惧れが多いことは過去の実例からも予測出来る事柄である。

又、可燃性ガス検定器についても同様であつて、不整備の検定器を使用すればメタンガス含有率の測定を誤り、大事に立至ることは明かである。

(五) 火薬類の不法持出し及び無断使用は危険である。

炭礦における火薬類の譲受、運搬及び貯蔵に関しては火薬類取締法規により、又坑内に於ける携帯及び使用に関しては鉱山保安法規によつて厳重な規定が設けられている。事業場閉鎖の場合に於ては火薬庫は当然施綻して火薬類の使用を停止するのであるが、坑内作業の遂行上、之を無断にて不法持出しを行い発破作業を強行することとなる。この場合は明かに火薬類の盜用であつて、重大なる違法であるばかりでなく、他に流用のおそれがあつて危険である。

又、炭礦に火薬庫がない場合に於ては、鉱業権者名による譲受許可証により、直接火薬類取扱商から火薬類を受取り坑内に使用しているが、事業場閉鎖の場合に於ても鉱業権者に無断で譲受許可証を使用することが起るので、これ又明かに違反であるばかりでなく、危険物を鉱業権者の許可なくして譲渡し、又は譲受けることは悪用の危険を生ずる。

又、坑内に於て火薬類を使用する発破作業は保安規則に基いて火薬類使用所の条件、ガスの有無又はその量に応じて火薬類の種類及び発破施行の方法等を保安管理者が指示しているのであるが、事業場閉鎖の場合、発破作業を強行するときは管理者の指示が行われず、発破作業はガス爆発その他重大な災害を惹起することは多くの実例が之を証明している。

(六) 無管理下の坑内電気は危険である。

我国の炭礦に於ても、採掘箇所が深くなるにつれて坑内の区域は拡大し、又設備が近代化するに伴つて使用している諸機械の馬力数も増加している。

昭和三十年三月末現在の調査によれば、主要運搬設備、運搬機の総馬力数は五十六万馬力、排水設備は五十七万馬力、通気設備は九万馬力に達しており、又坑内用配電線の延長は動力線四百三十七万米、電灯線及び信号線三百三十一万米の多きに及んでいる。是等の機械設備に必要な電気は坑外変電所から坑内に送電され、坑内に於ては網の目の如く各方面各切羽に分送される。是等の複雑多岐な電気系統に於ては、只一箇所のスイッチの一部品たりともおろそかには出来ないものである。

強行就労の場合に於ては、人心が動搖し、混乱し、無秩序となるので、或場合は意識的に、或場合はいたずら半分的に送電系統中の一部又は部品に手を触れ勝ちとなる。これが最も危険であつて保安管理者の指揮下を離れているため措置を誤り大事を惹き起す原因となるものである。

(七) 各礦業所に於ける特性

(1) 杵島礦業所

A 三坑 残炭採掘のため特に天盤粗悪にして重圧、側圧激しく盤膨れも甚しいため、もし保坑作業を停止した場合は天盤崩落甚しく通気に重大なる支障を来すことは明らかである

B 四坑 掘進延先等の一部に於ては局部扇風機が停止すれば約三時間にして爆発性メタンガスが停滞し極めて危険である当坑は湧水量一五〇C/Mであり比較的多く停電ポンプ故障の場合卸掘進ケ所及び主要先端ポンプ座の一部は三〇分乃至二時間で水沒する

炭戸の上下盤とも極めて軟弱、膨張性を有し保坑作業を停止した時は通気、排水は忽ち悪化し人命の危険大である

C 五坑 通風機を停止した場合は深部掘進ケ所に於ては約二時間にしてガスが停滞し爆発の危険が大となる

尚、当坑の天盤は極めて脆弱な頁岩であり払面に接近した坑道は重圧甚しく天盤崩落の惧れは極めて大きい

(2) 北方礦業所

A 西坑左五号曲片 曲片長の約2/3は天井滴水あり、天井直上は脆弱なる頁岩三尺~六尺である 従つて天盤崩落の危険は極めて大きい

B 西坑左四号払 天井よりの降水ケ所は最も危険を感ずる

C 西坑最大の生命線は本卸坑底のポンプにある 電昇左四号口ポンプが故障或は停電すれば本卸坑底ポンプは運転していても上部よりの泥水流入(80C/M)して危険に瀕する

若し、同ポンプが水沒すれば採掘区域への通気は四時間で完全に停止し西坑は水沒する

(3) 大鶴礦業所

坑内ガスが多く 若し局部扇風機が停止する様なことがあれば右二八片延、右二七片延、二卸延、三卸延の四ケ所は直ちに危険ガス(五%以上)が停滞し重大な危険状態となる

前述の通り保安管理者の指揮下にない強行就労は誠に重大な結果を招来するのであるが、そのため仮に申請人の事業所である四坑一区の二切羽(払長一八〇米)が水沒したとすれば次の施設物件がその中に含まれる即ち

坑道延長 九五〇間

払延長  一〇〇間

機械類

高圧ポンプ   五台 低圧ポンプ  五台

局部扇風機   四台 木イスト捲  五台

H型コンベアー 二台 鉄柱、カッペ 各八〇〇本

軌道一、九〇〇間   その他 ケーブル、オーガー、風管等

右坑道の復旧には米当り二万円の費用を要し、六万八千屯の出炭を失い、四ケ月の日時を費さねばならず、機械類の損失をも含めて実に約二億五千万円という莫大な損害となる

九、更に炭労は去る二月二十七日附中闘指令を以て組合闘争委員長に対し「立入禁止の仮処分が出された場合は、全員就業せず保安要員の差出しも拒否せよ」と指令している。かかる指令に基き保安要員の全面的不就労が実行されるならば、施設の荒廃破壊は勿論、ひいて国家経済並びに国民生活に及ぼす惨禍測り知れざるものあり、又人命にも危険が生ずることが当然予想せられるのであり、敢て労働関係調整法第三十六条、電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律第三条をまつまでもなく、かかる争議行為の違法なることは明らかである。

十、よつて申請人は組合に対し、所有権、鉱業権、営業権乃至占有権に基き、妨害排除並びに予防若しくは損害賠償請求権に基く本案訴訟を提起すべく準備中であるが、右訴訟の判決に至るまで現状の儘放置するに於ては、事業所全施設は被申請人組合に不法に占拠せられ、後日申請人に於ては勝訴の判決を得ても施設は荒廃に帰し、回復することのできない莫大な損害を蒙る虞れがあるし、此の事態は一分一秒を争う緊急を要する事態なのて本申請に及んだ次第である。

疏明書類別添(注、疏明資料一、二、以外は省略)

昭和三十一年三月十六日

右申請人代理人弁護士 石動丸源六 外一名

佐賀地方裁判所御中

仮処分申請理由追加申立

申請人 杵島炭礦株式会社

被申請人 杵島炭礦労働組合

右当事者間の御庁昭和三十一年(ヨ)第二十九号仮処分申請事件につき、申請人が昭和三十一年三月十七日提出した申請書理由に左記事項を追加する。

一、炭労は昭和三十一年三月十四日突如戦術転換をして「会社がロックアウトにより実力行使あるいはバリケードによつて職場えの立入が不可能な場合及び立入禁止の仮処分が出された場合は保安要員を積極的に差し出し、保安の確保を行い、保安要員以外は就労しない」ことに決定しているけれども、炭労の基本方針としてロックアウトは宣言のみでは効力がなく、事実上閉鎖が行われない限り、自由に立入り、就労することができるとの考え方によつて指導され、会社側がバリケードを構築せんとする場合はこれを阻止せよとか、バリケードは壊さないように動かし通行できるようにせよ、動かせない場合には台を置き、板を渡す等工夫して壊さないで乗り越えてゆかれるようにせよとか指示して会社側の閉鎖行為を事実上効力がないようにすることを企図していることは明らかである。

斯かる行為は申請人が各所の事業場を完全に閉鎖して盜難を防止し、作業場の秩序を維持して坑内の保安を確保する為妨害となることは言をまたない。

申請人が各所の事業場を閉鎖して右のような妨害その他の危険を阻止するに足る人員はこれを有しないので、本件仮処分を申請する必要性の存することは明かである。

二、昭和三十一年三月十七日東京に於いてなされた団体交渉に於いて申請人側代表が杵島炭礦は再建計画を実施して経営の合理化を図らざるを得ない実状にあることを説明した際被申請人代表は「自分にも覚悟がある」旨奮然として席をけつて退場し、一方山元に於いては、これに相呼応した如く昭和三十一年三月十八日総蹶起組合大会を開催し、約三千名の組合員を動員してロックアウト撤回抗議デモを行つた際、申請会社の納富取締役を前記群集の中に約四十分間(午後〇時三十五分より午後一時十五分迄)直立させ、「会社の出方如何では杵島労組独自の立場で保安要員総引揚も辞さない決意である」旨の抗議文を前記納富取締役に手交した実情である。

思うに申請人会社の争議は特殊の事情を内包する賃上闘争であるので、前記のような妨害の危険は極めて濃厚であつて、仮処分の要件である緊急性も亦充分に確認することができるものである。

三、今暁(三月十九日)午前六時一番方より作業場閉鎖を実施したところ、左記不法行為が行われた

(一) 杵島礦業所に於いて

(イ) 右礦業所第三坑に於いて午前六時十分、保安要員専用電車の発車に際し、被申請組合の南川厚生部長の指揮の下に約百名の組合員が会社側再三の制止を聞かず閉鎖区域内に侵入して同電車に勝手に乗車し五坑に向つた

(ロ) 右組合員等は第五坑繰込場に至り入坑を強要し現在に至るも退散せず「デモ」を遂行して居る(現在午前七時)

(二) 北方礦業所に於いて

(イ) 午前六時頃西坑々口外柵に於て約三十名の組合員が入坑を強要した

(ロ) 午前六時五十分頃、西坑々口南方竹藪の附近からニュースカーを先頭にして約四十名の組合員が閉鎖区域内に侵入し、繰込場に至り入坑を約一時間にわたつて強要した

(三) 大鶴礦業所に於いて

午前六時半頃約六十名の組合員が坑口に押しかけ、三上指導部長は「入坑のため責任者を出せ、出さないと退去せぬ」と強要した

右事実は本件仮処分の緊急性を充分に証するものである

四、以上の理由によつて直ちに仮処分決定を求める次第である

昭和三十一年三月十九日

右申請人代理人 石動丸源六 外一名

佐賀地方裁判所御中

疏明資料一

通告書

昭和三十一年一月以降鉱員賃金並に職員給与に関して、三月五日付申入書をもつて当方の態度表明を致しておりましたが、本日附貴方の回答は全く当方の誠意を無視したものであり諒解できません。当方はもとより事を好むものではありませんが、かかる貴方の態度に対してはもはや平和裡に事態を解決することは困難であると判断し左記により実力行使をもつて当方の決意を訴え貴方の猛省を促し、事態の解決をはかりますので

右通告致します。

尚、今次ストによる一切の責任は貴方にあることを申添えます。

一、当方加盟傘下支部は次の通り実力行使を決行します。

1 三月九日より十七日まで一斉一時間休憩の実施

2 三月十五日より十七日まで拘束八時間とし時間外労働の拒否

二、次の規模により当方傘下全支部は実力行使を決行します。

但し、坑口を有する該当支部以外の支部は除く。

1 スト規模

坑内より石炭を出す作業の拒否

2 期日

三月十九日一番方より要求貫徹まで無期限

一九五六年三月八日

日本炭鉱労働組合 中央執行委員長 阿部竹松

九州石炭鉱業聯盟 理事長 田中丑之助殿

疏明資料二

声明書

一、私共十三社の経営者は、今次賃金闘争における、炭労の部分ストに対し、不本意乍ら、ロック・アウト(事業場閉鎖)を実施せざるを得ない破目に追込まれました。

二、炭労の行う部分ストは、極く少数の人員を罷業させる事によつて、全出炭を不可能ならしめ、会社に対してのみ致命的打撃を与える悪質な争議戦術でありますので、経営者が之に対しロック・アウトをもつて防衞することは当然の処置であります。

三、然るに炭労は如何なる形の争議であつても、保安要員だけは差出さなければならない議務があるのに、会社側がロック・アウトをすれば、労働協約を無視し、法律に違反し、保安放棄という違法手段をつきつけて、経営者を脅迫して来ました。

保安が放棄されたならば、炭礦は水沒、ガス爆発、自然発火等により消滅するの外ありません。

四、私共はこの脅威に屈して、心ならずも、隱忍自重炭労の良識ある反省を促してまいりました。

五、今次賃金交渉に当つても、私共は平和裡に解決を図るために苦しい経営の中から、組合の協力を得て生産性を向上することにより増収を図る提案を致しましたが、炭労はこれに耳を藉さず、部分ストの圧力をもつて、飽迄要求を貫徹せんとしております。

六、ここに到つて私共は部分ストに屈し、企業の存立を失うか、ロック・アウトをもつて部分ストに対処するかにつき、最後の決断を迫られるに至つたのであります。

七、今回、私共の実施するロック・アウトに対し、炭労が既に予定した、保安放棄を撒回しなければ、多くの炭礦は荒廃の危険に曝されます。

然しかかる違法行為は法治国家において許さるべきでないことは勿論、山の従業員も亦違法行為によつて自己の職場を破壊し国民生活に重大な影響を与えるようなことを欲していないと固く信じておる次第であります。

八、万々一、不幸な事態が起りますならば、私共は素より、自らの力の続く限り防衞に努めます。

然し、炭労のかかる破壊的行動は社会からもその責任を追及せられるでありましよう。

茲に右声明致します。

昭和三十一年三月十四日

三井鉱山株式会社 社長 栗木幹

三菱鉱業株式会社 社長 伊藤保次郎

(中略)

杵島炭礦株式会社 社長 高取礼太

大正鉱業株式会社 社長 伊藤八郎

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